気候が変わってきた時代の水害対策。工務店ができる、応急処置から診断、復旧工事までのお話

こんにちは。
深健工舎の一級建築士大工のカズ こと 深澤一喜です。

はじめに、この夏の千葉県での豪雨により被害を受けられた皆さまへ、心よりお見舞い申し上げます。ニュースの映像を見ながら、現場の光景と、そこに暮らす方々のことを重ねて考えていました。

深健工舎は、群馬県前橋市を中心に、伊勢崎市、玉村町、高崎市、北群馬郡あたりで、自然素材を使った高気密・高断熱・高耐震の健康住宅を、新築・リノベーション・リフォーム工事で手掛ける、設計事務所併設の大工工務店です。快適で住み心地の良い家をつくることを、私たちの仕事の芯にしています。

私は一級建築士として図面を引き、大工として現場で墨を打ちます。一級建築士大工の墨出しは、ただ寸法を追うための線ではなく、家づくりの基準線を定める仕事です。だからこそ水害についても、机上の話ではなく、敷地と建物と暮らしの関係として考えたいと思っています。

先週は、建材メーカー様の勉強会と、現在受講している住宅医のスキルアップ講座で、信州大学の中谷岳史先生による水害のセミナーを2日にわたって受けてきました。学びの量がとても大きかったので、今日はその整理も兼ねて、工務店としてできる水害対策、応急処置、診断、そして復旧工事について、正直に書いてみたいと思います。

1.はじめに、私自身のことをお話しさせてください

私にとって水害は、勉強で知った話ではありません。

私の実家や職場は、近くに河川があります。子どもの頃から、川が氾濫して床上浸水した話、家財や道具、いろいろなものが流された話を、身近な出来事として聞いて育ちました。近所を歩けば、古い建物の鴨居より上(1.8mあたり)に、水が来た跡がうっすらと残っている家もありました。

実家、職場があるエリアをハザードマップで確認すると、浸水した場合の想定水深は3.0mから5.0m未満の区域にあります。同じ町内には、5.0mから10.0m未満と想定されている場所もあります。自分にとって水害は、他人ごとではないという感覚は、こういう背景から来ています。

だから、水害の話は、外から借りてきた話としてはしたくないのです。今回のブログも、その気持ちで書きます。

2.工務店として、水害復旧の現場に入った経験から

これまで私は、水害で浸水したお宅の復旧工事に、工務店として2件、直接携わってきました。いずれも、台風の影響で近くの川が氾濫し、床上浸水した現場でした。

そこで一つ、大事なお知らせがあります。

私の修業時代の現場では、消毒の目的で床下に石灰を撒くことがありました。ですが、今回学んだ内容も踏まえると、現在は石灰散布は原則不要で、推奨もされていません。もし親世代や地域の昔の知恵として「浸水したら石灰を撒けばいい」と伝わっている場合は、ここは一度見直した方がよいと感じています。

今、水害後の衛生対策として大切なのは、泥や汚れの除去と、徹底的な乾燥です。浸水後の対応では、濡れた家財の搬出、汚れの除去、床下や室内の乾燥、必要に応じた部分解体を、順番を間違えずに進めることが重要だと整理されていました。 資料1 資料2

順序としては、汚れを取り除く → 水分を取り除く → 必要な部分だけを慎重に外して乾かす、この流れが基本です。ここを間違えないだけで、その後の暮らしの戻り方が大きく変わります。 資料1

3.前提として、雨の降り方は本当に変わってきています

自分の経験だけでなく、公的な資料でも整理されていることを、ここで共有しておきます。

気象庁は、日本国内の極端な大雨の発生頻度は増加していて、強い雨ほど増加率が高いと整理しています。 気象庁

また、線状降水帯は、次々にできた積乱雲が列をなして、ほぼ同じ場所に数時間とどまり続けて大雨を降らせる現象で、発生すると災害の危険性が急激に高まると気象庁は説明しています。 気象庁

さらに国土交通省は、長期的に雨の降り方が変化していて、大雨や短時間強雨が増えていること、その背景には自然変動に加えて地球温暖化の影響があると考えられていることを示しています。 国土交通省

つまり、水害は「特別な年だけの出来事」ではなく、これからの家づくりと暮らしの中で、向き合っていく前提条件のひとつになってきている、ということです。

私はこれを、施主さんを不安にさせるために言いたいのではありません。むしろ逆で、現実を知っておけば、備えは落ち着いてできるからです。

4.住まい手ができること① まず、自宅の「建っている場所」を知る

家づくりも、リフォームも、耐震も、水害対策も、実は同じで、現状を知るところから始まります

私が最初におすすめしたいのは、自宅の建っている場所をハザードマップで確認することです。国のハザードマップポータルサイトでは、住所を入れて、その場所の災害リスクを重ねて確認することができます。 ハザードマップポータルサイト 重ねるハザードマップ

見ておきたいのは、たとえば次のような点です。

  • 洪水の浸水想定と、想定される水深
  • 内水氾濫(ないすいはんらん:下水や排水が処理しきれず、街の中で水があふれてくること)のおそれ
  • 土砂災害警戒区域に入っていないか
  • 近くの指定避難所と、そこまでの経路
  • 大雨のときに通れなくなりやすい道がないか

私自身、ハザードマップを確認して、「やはり他人ごとではない」とあらためて受け止めました。確認して初めて、備えは自分の話になります。

5.住まい手ができること② 家のまわりの「小さな水の道」を見直す

水害というと、どうしても川の氾濫を思い浮かべやすいのですが、実際の現場では、もっと身近な条件の積み重ねで被害が大きくなることがあります。

たとえば、

  • 側溝が落ち葉で詰まっている
  • 雨樋(あまどい)が詰まっている
  • 敷地内の排水がうまく流れていない
  • 道路より敷地のほうが低い
  • 勝手口や掃き出し窓が水を受けやすい形になっている

といったことです。

一つひとつは、小さなことに見えるかもしれません。ですが、大雨のときは、この小さなことの積み重ねで被害の受け方が変わってきます。

住まい手にできる備えとしては、次のような基本が大切です。

  • 雨樋や排水桝(はいすいます:雨水を集めて流す点検用のマス)を定期的に掃除する
  • 敷地の中で水がたまりやすい場所を把握しておく
  • 物置や庭の荷物を、大雨前に動かせるよう整理しておく
  • 土のう、水のう、吸水シートなどの置き場所を決めておく
  • 停電時に必要なライト、充電、簡易トイレ、飲み水を見直しておく

派手ではありません。でも、家を守るのは、こういう地味な手入れです。

6.住まい手ができること③ 家族の「動き方」を決めておく

もう一つ、家そのものより先に効くことがあります。
それが、家族の動き方です。

災害のときは、情報が多すぎて、かえって動けなくなることがあります。だからこそ、平時に決めておきたいことがあります。

  • どの情報を基準に避難するか
  • 誰が高齢の家族や子どもを連れて動くか
  • 車で避難するのか、徒歩で避難するのか
  • 避難先はどこにするか
  • ペット、薬、母子手帳、保険証券、通帳、鍵などをどう持ち出すか

線状降水帯のような雨は、短時間で状況が変わります。気象庁も、危険な場所にいる場合は自治体の避難情報に従って、適切な防災行動をとることが重要だとしています。 気象庁

子育て中の一人の親としても、ここは強くお伝えしたいところです。家の性能より、家族の段取りが先に効く場面があります。

7.工務店ができること① 浸水前に「その家の弱いところ」を見つけておく

ここからは、工務店の立場からのお話です。

私は普段、設計だけでも、施工だけでもなく、その間をまたいで仕事をしています。図面と現場の両方を見ていると、水害においても、その家の弱点は、事前にわかることが多いと感じます。

一級建築士大工の墨出しは、ただ線を出すことではありません。図面の考え方を現場の現実に置き換えて、どこに水が向かい、どこが弱く、どこを先に守るべきか、その基準線を決める仕事でもあります。

たとえば、

  • 敷地と道路の高低差
  • 玄関、勝手口、掃き出し窓の納まり
  • 基礎の換気経路と床下の点検性
  • 雨水の流れる道と排水の集まり方
  • 外構が水をせき止める形になっていないか
  • 1階に置いてある設備や収納の位置

こうしたことは、図面だけでは見えません。現場を見て、暮らしの動きまで想像して、初めて見えてくることがあります。

大工として現場を見て、一級建築士として根拠で考える。その両方を持って歩くことで、「大雨のときに、この家のどこに水が向かうか」が少しずつ見えてきます。 深健工舎

災害の日に強いのは、その日いきなり動ける家ではなく、普段から見られている家です。

8.工務店ができること② 浸水後の応急処置と、壊し方の順番

もし浸水してしまった場合の話も、正直に書きます。

まず大切なのは、応急処置と復旧工事を、一気にひとつにまとめないことです。段階を分けて進めることが重要だと、今回の資料でも強調されていました。 資料1

順番の目安は、こうです。

① 安全確認と記録

電気やガスなどの安全を確認したうえで、片付ける前の状況を写真に残します。被害記録は、保険や公的支援の手続きにも役立ちます。 資料1

② 泥や汚れの除去

ここが、その後の衛生と乾燥効率を大きく左右します。石灰を撒くのではなく、まずは泥や汚れを取り除くことが今の基本です。 資料1 資料2

③ 徹底的な乾燥

床下の送風、換気、必要に応じた含水状態の確認。乾かすことは、見た目のためではなく、衛生と再発防止の土台になります。 資料1

④ 必要な範囲だけの部分解体

床や壁は、浸水したからといって必ず全面解体とは限りません。状態を見ながら、必要な範囲だけを慎重に外していきます。床下の乾燥を先に進めることで、解体を最小限に抑えられる場合もあります。 資料1

⑤ 再発を抑えるための処理

乾燥の進みに合わせて、木材への防カビ処理など、再発防止に向けた対応を行います。 資料1

⑥ 記録と制度の活用

罹災証明や応急修理制度など、公的な仕組みの利用を考えるうえでも、被害の記録は大切です。 資料1

ここで、施主さんに一番お伝えしたいことがあります。

浸水したからといって、すぐに全部を壊すとは限りません。

「全部やり直しになります」と言われるのは、施主さんにとっていちばんつらい言葉です。だからこそ工務店には、壊す前に診る力、乾かし方を組み立てる力、住みながら戻れる道筋を描く力が求められるのだと思います。

必要な補強を、必要な場所に、必要な量だけ。
耐震で私が大切にしている考え方は、水害後の復旧でも通じると感じています。 深健工舎

9.工務店ができること③ 水害に強い家を、設計の順番から考える

水害対策は、起きてからの話だけではありません。新築でも、リフォームでも、設計の段階からできることがあります。

  • 重要な設備を、水が入りやすい位置に置かない
  • 床下を、点検しやすく、乾かしやすい形にしておく
  • 排水の流れを、敷地と一緒に考える
  • 外構で水をせき止めない
  • 直しやすく、乾かしやすく、剥がしやすい納まりを選ぶ
  • 素材選びも、暮らしと保全性の両方から考える

私が学びに行った現場でも感じたことですが、「剥がして新品にする」ほうが、実は現場としては楽です。残すことのほうが、腕が要ります。 深健工舎

水害後の復旧も、それに近い部分があります。壊さずに済ませるためには、普段の設計の段階で、直しやすい家をつくっておくことが大切です。

10.まとめ|備えは、不安をあおるためではなく、暮らしを続けるためのもの

雨の降り方は、たしかに変わってきています。 気象庁 国土交通省

だから、備えが必要です。
でも、備えは、不安をあおるためのものではありません。
暮らしを、暮らしのまま続けていくためのものです。

だから今日は、大工の立場からも、一級建築士の立場からも、そして水害の想定区域に暮らす一人の生活者としても、こうお伝えしたいと思います。

  • まず、ハザードマップで自宅の建っている場所を知ってください。
  • 家のまわりの排水と外構を、季節ごとに見直してください。
  • 家族で、いざという時の動きを話しておいてください。
  • 浸水してしまった時は、石灰を撒くのではなく、泥や汚れの除去と徹底的な乾燥を優先してください。
  • そして、家のことは、地域の工務店に気軽に相談しておいてください。

地味な備えほど、いざという時に効きます。

家のこと、暮らしのこと、気軽にご相談ください

ここまで少しかたい話が続きましたが、最後にひとこと。

家づくりも、リフォームも、リノベーションも、防災の相談も、最初は「こんなこと聞いていいのかな」というところから始まる方がほとんどです。大丈夫です。そこから始めましょう。

群馬県前橋市を中心に、伊勢崎市、玉村町、高崎市、北群馬郡あたりで、家のこと、暮らしのこと、水害への備えで気になっている方は、どうぞお気軽にお声がけください。

深健工舎の一級建築士大工のカズ こと 深澤一喜が、大工の立場からも、一級建築士の立場からも、そして子育て中の一人の親としても、正直にお答えします。


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大型台風や線状降水帯、ゲリラ豪雨が増える時代に、住まい手ができる備えと、工務店ができる応急処置・診断・浸水復旧の考え方を整理しました。石灰散布ではなく、泥や汚れの除去と徹底的な乾燥が基本です。


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