問題は「建てたら終わり」という発想にあります
深健工舎は群馬県前橋市を中心に、自然素材を使った高気密・高断熱・高耐震の快適な健康住宅を、新築、リノベーション、リフォーム工事で手掛ける、一級建築士事務所併設の大工工務店です。
こんにちは。大工であり、一級建築士でもある 深健工舎のカズです。
最近、こんなご相談をいただくことが増えました。
「この家は、本当に長く住める家ですか?」
「もし手放すことになったとき、この家はどうなるんでしょう?」
「環境のことも考えて、できるだけ自然に優しい家にしたいんです」
実は、この質問の背景には、日本の住宅産業全体が経験している大きな転換点があります。
なぜ、この問題が起きるのか

日本の住宅の平均寿命は、約30年だと言われています。対比して、アメリカは約55年、イギリスは約77年。世界的に見ても、日本の住宅は極めて短命なのです。
高度経済成長期からバブル期にかけて、日本は「ビルド・アンド・クラッシュ(建てて壊す)」という経済モデルに依存してきました。新しい家を建てることで景気を牽引し、古い家を壊すことで建設需要を創出する。その循環の中で、住宅は「消費財」として扱われてきました。
しかし、世界的な気候変動、資源枯渇、廃棄物問題の深刻化に伴い、この考え方は急速に通用しなくなっています。
■ 正確にお伝えしておきたいこと
建築に関わる環境への負荷は、想像以上に大きいのです。
建設廃棄物が占める割合
日本の全産業廃棄物排出量のうち、建設廃棄物は約2割を占めています。(出典:国土交通省 建設副産物実態調査)。これは、1年間に約100万トン以上の建築関連ゴミが発生していることを意味します。
ファッション業界との比較
参考までに、環境汚染の第2位と言われるファッション業界から毎年9,200万トンの繊維が廃棄されています。(出典:グローバル・ファッション・アジェンダ調査)建築廃棄物も、この規模に匹敵する環境課題なのです。
建築物のライフサイクルCO2
住宅が排出するCO2の約6割は、実は「居住段階」で発生します。つまり、建てるときのCO2より、住んでいる間の暖冷房エネルギーの方が大きいのです。だからこそ、省エネ性能を最初から確保することが、ライフサイクル全体でのCO2削減に直結します。
建築基準法・業界基準・メーカー推奨(三層の根拠)
- 【建築基準法(法的義務)】建設リサイクル法により、500㎡以上の工事では木材、コンクリート、アスファルトなどの分別解体とリサイクルが義務付けられています。
- 【業界基準(国の認定制度)】長期優良住宅認定制度(2009年施行)が、100年以上の耐久性を目安に設定されました。ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)基準、GX-ZEH(グリーントランスフォーメーション対応)も、居住段階でのエネルギー自給率を高めることを求めています。
- 【メーカー推奨(最新認定)】LCCM住宅(ライフサイクルカーボンマイナス住宅)の認定が進んでおり、建設から廃棄まで、ライフサイクル全体でCO2をマイナスにする設計が求められるようになりました。
つまり、新築時から「50年後、100年後の解体時のこと」を考えて設計・施工することが、これからは必須なのです。
では、どうするのか
▶ 【新築をお考えの方へ】
設計段階で決まるのが、実は「その家が100年持つか、30年で壊れるか」ということです。「あとから」では手遅れになる理由:
- 【素材選択が建材廃棄物を左右する】 化学接着剤や複合素材は、解体時に分別が困難で、最終的には焼却処分や埋め立てになりやすい。一方、単一素材(無垢木材、左官壁、自然素材)は、解体時に容易に分別でき、再利用や土への還元が可能です。
- 【構造設計が長寿命を決める】 伝統的な大工の継ぎ手・仕口(しぐち)で構造を組み立てると、将来の修繕や部材交換が容易になり、建物の寿命が飛躍的に延びます。接合部にボルトや金物を多用する設計は、施工は簡単ですが、100年単位での耐久性には不利です。
- 【設備・配線の「解体時の分別」も考える】 配管やコンセント、照明の位置を最初から「容易に取り外せる」設計にしておくことで、解体コストが下がり、リサイクル率が上がります。
私の現場では、こうしています:
「設計図に『解体想定図』を描きます。50年後、この家が解体される時、どの部材がどのように分別されるのか。その流れを逆算して、今の施工方法を決めるんです。」
なぜなら、建築基準法で求められる「安全性」と「耐久性」は、実は「解体時の安全な分別」を前提にしているからです。
一級建築士大工の「墨出し(すみだし)」の考え方
大工の仕事は「墨出し」から始まります。墨出しとは、設計図を実際の現場に落とし込み、柱や梁の位置、基礎の位置を正確に印す作業です。この精度が、その後の施工全体を左右します。
しかし、一級建築士として私が行う「墨出し」は、単なる寸法の正確性だけではありません。家の設計は、構造の安定と耐久性の線引きから始まるのです。
つまり、最初に決めるべきことは「この家が、どの程度の地震に耐え、どの程度の風に耐え、そしてどの程度の長さの時間を生き延びるのか」という根本的な問いなのです。
それを決めてから、初めて「どの素材を、どのように配置するか」という具体的な設計が始まります。
例えば:
構造安定性の線引き
建築基準法では、耐震等級1(最低基準)から耐震等級3(最も高い基準)まで定められています。長期優良住宅を目指すなら、最低でも耐震等級2以上を確保する必要があります。この判断が、その後の梁の太さ、柱の本数、継ぎ手の仕様を決めます。
耐久性の線引き
木造住宅が「100年持つ」ためには、湿度管理、防腐・防蟻処理、基礎の仕様、通気層の確保など、複数の要素を同時に満たす必要があります。この条件を最初に整理し、設計図に明記することが、現場での施工精度を確保します。
ZEH、GX-ZEH、長期優良住宅、LCCM — 4つの視点
これらの認定基準は、すべて「ライフサイクル全体での環境負荷を最小化する」という同じゴールを指しています。
| 基準 | 目的 | 主な要件 | 深健工舎での位置づけ |
| ZEH (ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス) | 年間のエネルギー収支をゼロ以下にする | 太陽光発電と高断熱・高気密による省エネの組み合わせ | 【最低ライン】新築時の標準目標 |
| GX-ZEH (グリーントランスフォーメーション対応ZEH) | ZEHのさらに先へ。再生可能エネルギーの自給率を高める | 蓄電池による「エネルギーの自家消費」まで見据えた設計 | 【次世代標準】電気代高騰リスクを見据えた設計 |
| 長期優良住宅 | 100年以上の耐用年数を想定した設計・施工 | 構造躯体の耐久性、メンテナンス計画、維持管理の容易性 | 【100年住宅の証】国が認定する制度の取得 |
| LCCM住宅 (ライフサイクルカーボンマイナス) | 建築時・居住時・解体時のCO2を全て計算し、トータルでマイナスに | 太陽光発電やCO2吸収素材(無垢木材)の活用 | 【最高峰】ライフサイクル全部での環境負荷最小化 |
実は、これら4つを同時に実現することは可能です。高断熱・高気密で省エネ性能を確保し、太陽光発電でエネルギー自給を実現しながら、同時に伝統的な大工技術と自然素材で長寿命を確保する。そして、将来の解体時に向けて、分別しやすい素材と構法を選択する。
この「全体最適」の設計思想が、これからの家づくりのスタンダードになるのです。
▶ 【リフォーム・既存住宅の方へ】

今、確認できることから始めましょう。
既存住宅をお持ちなら、現在の状態を把握することが第一歩です。その後、段階的に環境負荷を減らすリフォームを進めることができます。
チェックリスト:
| ☐ この家は何年前に建てられたか、施工時の図面は残っているか | |
| ☐ 壁内の断熱材は何か、湿度管理はできているか(カビ・結露の兆候はないか) | |
| ☐ 屋根、外壁、開口部の劣化状況は | |
| ☐ 配管・配線は、取り替える際に容易にアクセスできる設計か | |
| ☐ 現在の冷暖房エネルギー消費量は把握しているか(電気料金から逆算可能) | |
| ☐ 太陽光パネル導入は可能な屋根の向き・面積か | |
【所要時間】 30~60分(自己診断) 【費用】 0円~50,000円(専門家による診断)
もし、断熱性能が低いなら、こうします:
- 【優先順位を決める】 最も熱が逃げる場所は「窓」「壁」「屋根」の順。限られた予算なら、まず開口部(窓・ドア)の性能向上から始めます。
- 【素材を「将来の解体」を想定して選ぶ】 新しい断熱材を入れるなら、化学系より自然系(セルロースファイバー、羊毛断熱、木質繊維ボード)を優先。解体時に環境負荷が少なく、再利用や自然還元が可能です。
- 【太陽光発電の導入を検討】 既築住宅でも、屋根面積が十分なら太陽光パネルを後付けできます。これにより、リフォーム後の居住段階でのCO2削減が実現します。
- 【メンテナンス計画を立てる】 100年使える家を目指すなら、10年単位でのメンテナンス計画(防水工事、外壁塗装、設備更新など)を最初から想定しておくことが、実は最も経済的です。
なぜ、私がこだわるのか
私が本当の意味で「大工の良し悪しは、家を壊したときにわかる」ことを理解したのは、あるお客さまとの会話がきっかけでした。
そのお客さまは、前に住んでいた家を解体する際、解体業者さんから驚くべき話を聞いたのです。
「この家、重機を使っているのに全然壊せなくて、苦労しました。木が本当にしっかり組まれていて、釘もほとんど使わずに、継ぎ手と仕口だけで構成されている。こんな家は久しぶりです。」
その時、お客さまが教えてくれたのは、実はカズの父の親方が造った家だったということ。その親方は、本当に腕のいい大工さんだったのです。
その話を聞いて、私は思い出しました。父の親方たちから何度も聞かされていた、ある言葉を。
「大工の良し悪しは、生活していると当たり前でわかりづらい。でも、壊すときに本当の良さがわかるんだ。」
その時点では、私はその言葉の深い意味をきちんと理解していませんでした。しかし、大工の修行を続け、一級建築士の資格を取り、建築のライフサイクル全体を考えるようになってから、その言葉の重さが腑に落ちたのです。
生活している間は「当たり前」である。
冬暖かく、夏涼しく、雨漏りしない、地震に揺れない——そうした基本的な性能が確保されていれば、住む人は「この家はいい家だな」と感じるでしょう。しかし、その「当たり前」を支えている構造の質、素材の質、施工の質は、見えません。
しかし、50年後、100年後に家が解体されるとき、それは一目瞭然になる。
重機で簡単に壊れる家と、壊すのに手間がかかる家。その差は、実は「素材がどのように繋がれているか」「どのような力学で構成されているか」という、設計・施工の本質的な違いなのです。
釘と金物でとめられた家は、解体時には簡単に分離できるかもしれません。しかし、それは逆に言えば「部材が弱く繋がっていた」ということでもあります。一方、伝統的な継ぎ手と仕口で組み立てられた家は、解体時には苦労するかもしれない。しかし、その「苦労」こそが「何十年もの間、その家が構造的に安定していた」という証拠なのです。
そして、今、私たちが考えるべきことは、こうです。
単に「壊すのに手間がかかる = 良い家」というだけではなく、
「壊すときに、素材が適切に分別でき、再利用可能な状態で残される
= 環境にも優しい、本当に良い家」
ということなのです。
建築基準法に準拠した構造の安定性と耐久性を確保しながら、同時に「将来の解体時のこと」まで想定した設計・施工をすること。それが、これからの大工、これからの建築士の責務だと、私は今、強く感じています。
だから今、私は一級建築士としての「設計責任」と、大工としての「施工実現性」、そして「環境への倫理観」——この3つの視点から、ご家族と向き合っています。
それは、単なる「いい家を建てる」というレベルではなく、「これからの100年を担う家を創る」という使命感につながっているのです。
【シーン別の心構え】
💡 子育て世代のパパ・ママへ
この家で、お子さんたちが成長する。学校から帰って、夏は涼しく、冬は温かい家で宿題をする。友達を呼んで、一緒に笑う。そして、いつか大人になったとき、「この家で育った」という思い出を持つようになる。
その時間を支える家だからこそ、「今の選択」が重要なのです。
単に「耐えるだけの家」ではなく、「経年とともに味わい深くなる家」「メンテナンスで何度も生まれ変わる家」を選ぶことで、お子さんたちにも「ものを大事にする」という価値観が自然に伝わります。
また、太陽光発電やエネルギー自給の家に住むことで、お子さんたちは「自分たちの家は自分たちでエネルギーを作っている」という実感を持つようになります。これは、環境教育の最良の教材です。
🏠 これからリフォームを考える世代へ
残りの人生を過ごす家だからこそ、「壊れてから」ではなく、これからの10~20年の安心にこだわってください。
今のリフォームで断熱性能を上げ、太陽光パネルを導入すれば、電気料金は劇的に下がります。同時に、夏涼しく、冬暖かい家は、体への負担を減らし、健康寿命を延ばします。
そして何より、「このリフォームで、この家はあと50年使える」という確信を持つことは、精神的な豊かさにもつながるのです。
【前橋での実践例:CCFと循環する素材の取り組み】

着物を使った七夕飾り
ここで、私たちの地元・前橋での具体的な取り組みをご紹介します。
第76回前橋七夕まつり(2026年7月開催)では、群馬県立女子大学 高橋綾教授のデザインゼミと、Circular Cotton Factory(CCF)が協働し、ユニークなワークショップを開催しました。
参加者が持ち寄った思い出の古着や浴衣生地を活用し、短冊型の七夕飾りを制作。その飾りの一部に、繊維廃棄物を再利用した「サーキュラーコットンペーパー(CCFペーパー)」が使われました。

織姫と彦星をモチーフにしたロボットとCCFペーパーの短冊飾り ワークショップには参加できませんでしたが実物を見に行ってきました
古着に込められた思い出や願いごと、地域の文化、そして循環する素材——さまざまな想いが重なり合い、前橋のまちなかを彩る七夕飾りとして展示されたのです。
これは、建築の世界で私たちが目指していることと、まったく同じです。
ファッション業界で年間9,200万トン廃棄される繊維を、CCFは「資源」として再生させています。建築でも同じ——解体時に発生する建設廃棄物を、ただのゴミとするのではなく、次の家の建材に、地域の紙に、さまざまな形で「循環させる」という発想です。
ご相談、お待ちしています
「ちょっと気になってた」くらいで、十分です。
- 「新築を考えているけど、本当に長く住める家にしたい」
- 「今の家のエネルギー性能について知りたい」
- 「ZEH、長期優良住宅、LCCM——結局、どれが最適なの?」
- 「リフォームを考えているけど、どこから始めたらいいのか」
- 「環境のことを考えた家づくりについて、もっと詳しく知りたい」
お気軽にご相談ください。
ビルド・アンド・クラッシュの時代は終わり、100年使える家へのシフトが始まっています。
その一歩を、一緒に踏み出しましょう。
📌 参考資料
国土交通省「建設副産物実態調査」 —— 建設廃棄物が全産業廃棄物の約2割を占める根拠
環境省「長期優良住宅認定制度」 —— 100年耐用住宅の基準と認定要件
ZEH推進事業(経済産業省 資源エネルギー庁) —— ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの定義と導入支援
LCCM住宅認定制度(一般社団法人 ハウスプラス) —— ライフサイクルカーボンマイナス住宅の認定基準
グローバル・ファッション・アジェンダ「ファッション業界の廃棄物実態」 —— 繊維廃棄物9,200万トンの出典
Circular Cotton Factory 公式サイト —— 廃棄繊維の再資源化事例
第76回 前橋七夕まつり 公式サイト —— 地域の文化と循環型素材の融合事例
深健工舎
群馬県前橋市で、高気密・高断熱・高耐震、自然素材の快適な健康住宅をつくっています。
建築基準法に準拠した上で、ZEH、長期優良住宅、LCCM対応の設計・施工を実現。
ビルド・アンド・クラッシュの時代から、100年使える家へ。



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